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多くの経験を来年の糧に(デビスカッププレーオフを振り返って)
『チー!』『レー!』『チ・チ・チ、レ・レ・レ、Viva Chile(ビバ チレ)!』何度聞かされたであろうか。現地では国名の「Chile」は「チリ」でなく「チレ」である。最初の「チー!」を誰かが叫ぶとそれをフォローして「レー!」を十数人以上が、そして観客全員が「チ・チ・チ、レ・レ・レ、ビバ チレ!!」と大合唱。嫌味がなく、可愛い感じだが迫力ある応援だ。在留邦人も高橋啓介応援団長率いる50名で「ニッポン!チャ、チャ、チャ!」と整然たる声援で、地元チリの観客の大喝采を受けるが、如何せん多勢に無勢。それでも日本チームには心強い限りの味方だ。さらにトーマス嶋田の父君が時折発する「その調子!」が大きなインパクトとなり、6,000人の観客の視線を一斉に浴びる。さすがデビスカップ戦だ。
二日目、ダブルスの前にマルセロ・リオスの引退式があった。今でも絶大なる人気である。歴代のデ杯選手、ピント・ブラボー、パト・ロドリゲス、パト・コルネホ、ハイメ・フィヨルなど私にとっては1960年代の旧友たちが並び、現役のデ杯チームが全員試合前というのに約一時間整列してリオスの引退を惜しみ、リオスは恥ずかしそうに全員とHug(抱擁)して感謝の意を表した。この式典前に観客席に入った元デ杯選手のパト・コルネホなどは、目ざとく会場のアナウンサーに見つけられ紹介されると、手を上げ応えながら両手を口に添え声高らかに「チー!」、観客は喜び勇んで「レー!チ・チ・チ、レ・レ・レ、ビバ チレ!」
先般JTA Newsの原稿に「もっとはしゃごう!ラテン民族のように!」と提案したが、まさしくそこには生のラテンがあった。羨ましい思いで一杯であった。そしてこの応援は最後まで勢いを失うことはなかった。
チリ国にとって初めての金メダルが、今回のテニスの単複優勝で獲得したものである。そして今回のアテネオリンピックで獲得したメダル数3は、すべてがテニスである。メダルを取った後の最初の顔見世が今回、日本とののデ杯戦プレーオフになった。大変な盛り上がりは当然のことであろう。
チリチームは、20名近くの屈強のボディーガードに守られる。日本チームにはまったくそれがなく身軽なものだ。「急に世界が変わったであろうチリチームは、絶対に無様な姿は見せられないというプレッシャーがある。そこがアキレス腱だ。」と心理戦になることを望んだが、ラテンの血の傾向は、私の思考範囲の範疇外にあった。まさに「ノリノリ」。しかも1本のスタンドプレーショットもなく、終始全力でハードヒッティングに徹し、また日本のドロップショットは全力疾走で完璧に封じ込められた。それはそれは素晴らしいテニスを披露してくれた。これならアメリカでも、スペインでも、フランスでも互角の戦いを挑むまさにチャンピオン国のテニスであった。
とにかくエラーというものが殆どない。エラーは「ここ!」と決めた時の勝負のショットが、僅かにアウトする程度のものだ。練習も見た。チームのテクニカルスーパーバイザー・ホラシオ・デラペーニャ氏は、アルゼンチン人だが、ゴンザレスのコーチでもあり、チームのコーチでもある。(ちなみにマスーのコーチは、パト・ロドリゲス) このコーチは、1985年から1990年頃ツアーで活躍し、単4勝、複6勝の経歴の持ち主でサウスポーだが、この人がまた凄い!コートの左サイドに立ち、マスーやゴンザレスにフォアの逆クロスをガンガン打たせる。この強打をまったく問題なく、エラーもせずに、だんだんと廻り込み難いところに打ってくるのだが、選手がもうこれ以上は廻り込めないというサイドフェンス一杯に来るとコーチが、「ギャー!」(多分「ダウンザライン!」だと思う・・。)。選手は必殺の一打をストレート一に放つ。これが殆ど入るのだが、逆クロスが恐らく10本以上続けられてからのことだ。これを果てしなく繰り返す。これを見て即座に「こりゃー日本はかなわない」と思った。それほど迫力のある練習だったが、これに対抗した日本選手の抵抗にも驚かされた。
帰国の途上、ロサンゼルスで見た日本の新聞記事のデ杯に関する記事の小さいこと。まさに腹が立った。あれだけ小さく、またスコアだけの記事なら、誰が読んでも日本は完膚なきまでにやられたと思うだろう。事実帰国してテニス好きの方々と話してもチリのチも出てこない。まったくの意識外のことだったのである。
チリではタブロイド版の新聞が数種類出ているが、デ杯の記事は、どれもカラー写真をふんだんに取りこんだ4~5面のフル紙面記事だ。日本選手の健闘を称え、しかも日本の応援団長の高橋啓介さんを大きく取り扱っている。そう、今回のプレーオフに関しては、現地に赴いた証人の一人として、断固として言いたいのは、今回の対戦は、スコア以上の熱戦であったということ。
実際試合が開始されると、チリの選手はサイドフェンスの辺りから、またバックフェンス辺りから打つハードヒッティングで、逆クロスまたはダウンザラインにエースを取ってくる。そして一球ごとのガッツポーズ。
第1試合のマスー対本村は、まったく同じタイプで、スケールは向こうの方が上、じっくりと構えられて慎重にことを運ばれると付け入る隙がない。ポイント毎は見応えがあったものの勝てる方程式は見当たらなかった。
第2試合のゴンザレス対鈴木は、鈴木が、レッドクレーでもこの作戦で行くかと一瞬頭を傾げたが、これが成功だった。打ち合っても利なしと見た鈴木は、果敢にサーブ&ネット、リターン&ネットでじっくりとストロークをさせない。切れのあるサービスエースに加え、ストローク戦でも相手のトップスピンに対して滞空時間の長いスライスで対応。機を見てネットに出て、スマッシュは100発100中の華麗さを見せ、チリ人には見たことのない迫力あるネットプレーを見せつけた。
ダブルスは、「えっ?!」と目を疑った。チリはサーブをしてもステイバック。帰ってきたリターンをサーブと同じくらいのスピードで日本ペアの足元をえぐる。これがなんとも恐ろしい。短くなったボールは、ボディー狙いとなる。見ている私の腰が引けてしまうくらいの迫力だ。当然レシーブサイドが滅法強く、何度もブレークされ、一方チリは、このステイバック作戦で一度もサーブをダウンすることなく、完勝した。
本村は、第3日目、マスーに勝るとも劣らない迫力のゴンザレスとの一戦で、ストロークの打ち合いで何度も切り返しでエースを取った。レッドクレーコートとハードヒッターへの慣れがあれば戦えるかもという希望と、鈴木がアンツーカーを嫌うどころか好きになった印象を得たのは、何よりワールドグループに足を入れたことによる大きな収穫であろう。
ボブ・ブレットスーパーバイザーが言った「経験してみないと判らないことが多くある。今回は貴重な経験だ。」の言葉に重みを感ずる。私自身の印象も、「厳しい岩壁を登ったところに素晴らしい眺望があった。しかし体は満身創痍になった。」である。体を鍛えなおし、2005年は台湾・タイまたはパキスタン戦に勝って再び世界の眺望に挑戦してもらいたいと切に思うものである。そのためにも、ワールドグループ国の80%がホームコートとするレッドクレーでの戦い方をマスターすることが絶対に必要であると痛感し、また、現地で応援団を組織して頂いたチリ三井佐藤社長、高橋応援団長に感謝の念を感じながら、神和住監督や選手とともに、その日の夜行便で家まで40時間かかる帰国の途についたのだった。
デ杯ワールドグループ・プレーオフ「日本VSチリ」
悲願のワールドグループ復帰はならず
月刊スマッシュ編集部 渡辺隆康
9月24日~26日、日本デ杯チームは6年ぶりにワールドグループ・プレーオフの晴れ舞台に立った。相手はアテネ五輪の金・銅メダリスト、マスーとゴンザレスが率いるチリ。熱狂的な応援が渦巻く敵地ビーニャデルマールのレッドクレーに乗り込んだ日本は、全力で世界屈指の強豪国に挑んだ。しかし、結果は0-5の完敗。悲願のワールドグループ復帰を逃すとともに、世界の壁の厚さを痛感させられることとなった。戦い終えた選手たちは、この敗戦をどう捉えたのだろう。ここでは簡単に試合の流れを追った上で、選手たちのコメントを抜粋して紹介しよう。
第1日 第1試合
本村剛一[1‐6 1‐6 1‐6]N・マスー
立ち上がり、地元の大きな期待を背負うマスーは固さでミスが多く、本村が第1ゲームをラブゲームでキープ。しかし第3ゲームでマスーがブレークに成功すると、緊張も解け、一方的にマスーが振り回す展開となる。鋭角にスピンを打って本村をコートから追い出し、空いたスペースに計ったようにエースを決めるマスー。本村は、ある程度まではラリーで粘ることはできたが、自分から攻撃するには至らず、決定力の差が歴然と出てしまった。1時間40分でマスーに軍配。
本村のコメント
「今回はあえて強打はしないで、ヘビースピンで跳ねさせて、チャンスを待つのというのが、ボブ(ブレット)と決めた作戦だった。僕はここ5年クレーでプレーしていない。そんな僕がいきなり世界10位を相手に強打しても無理。決して強打できなかったということではない。ただ、ヘビースピンといっても、いつもよりは強いボールを打っていったし、その意味では真っ向勝負しすぎたかもしれない。ただ向かっていくだけで、もう少し工夫があったら良かったと思う。ストローク自体は悪くなかったが、最終的にそれが少し短くなったところを決められてしまい、ゲームを取らせてもらえなかった。クレーでのプレースタイルを僕のほうがぜんぜん知らない感じだった。マスーはフォアとスピンサーブが凄かった。それで崩されて、あとは簡単に決められるというパターン。でも、確かに凄い球を打ってくるけど、普通のラリーでは結構対抗できるんじゃないかという手応えはあった。いい経験というか、これからの自分のテニスの自信にはなったと思う」
第1日 第2試合
鈴木貴男[4‐6 2‐6 6‐7(1)]F・ゴンザレス
第1、第2セットは、ゴンザレスのボールの勢いと素早い動きに、鈴木が圧倒された。強烈なだけでなく鋭く落ちるゴンザレスのパスに、鈴木は得意なはずのボレーでミスを誘発される。スライスやドロップボレーで揺さぶろうとしても、素早い動きで拾われ、さらに叩かれる。しかし第3セットに入ると、鈴木もゴンザレスのボールに慣れ、ボレーで着実にポイントを挙げられるようになる。6-6までサービスキープが続く接戦。結局タイブレークで敗れたが、鈴木のテニスが世界でも通じることを十分にアピールした。
鈴木のコメント
「クレーであのレベルのテニスを普段経験していないから、1、2セット目でいきなりギアをあそこまで上げるのは難しい。ボールのスピード、重さ、コースがなかなかわからなかった。ゴンザレスのボールは、バウンドしてから一気に跳ねてくるタイプで、ボレーでは逆に飛んで来ない。つぶしてスピンをかけているから急激に落ちて、すごく打ちにくかった。普通のフラット系のパスとは全く質が違う。それからセカンドサーブが重くて、バックに来るとわかっていても弾かれてしまい、簡単にはネットに出られなかった。前への動きもすごく早い。ドロップショットを打つと、普通はスライスで返してくるところが、彼はスピンで切り返してきた。あそこまで叩かれるのは、僕の教科書にはない。反応が凄かった。ただ、確かに彼は化け物だが、セットを取れないとか、全くお手上げという感じではなかった。勝つのはきついが、最高のテニスをすれば5分5分ぐらいは行ける。第3セットは、彼もちょっとは焦ってくれたかなと思う。僕も色々な攻撃ができるようになって、楽しめたし、こんなに遅いクレーで、サーブ&ボレーである程度ゲームが取れたのにはびっくりした。リターンゲームでもうちょっと慌てさせたかったが……。でも今日に関しては全てを出したと思う」
第2日 ダブルス
トーマス嶋田/鈴木貴男[3‐6 3‐6 1‐6]F・ゴンザレス/N・マスー
五輪金メダルペア、マスー/ゴンザレスのダブルスは、サービスゲームでは雁行陣をとり、リターンゲームでは2人で後ろに下がり、徹底してストロークで勝負するスタイル。普通に考えればネットで攻撃する嶋田/鈴木のほうに分がありそうだが、チリペアのストロークのレベルが想像を絶するほど高かった。凄まじい強打を日本ペアに浴びせかけ、エースやウィナーを量産。ダブルスとは思えないほどノータッチのパスが抜けた。日本ペアは一つもブレークできず、ストレート負け。0勝3敗でプレーオフ敗退が決まった。
鈴木のコメント
「オリンピックをテレビで見ていて、ああいう展開になるとは思っていた。リターンでは後ろのラリーに付き合わなければいけないし、前に出ても相当きつい所に打たれるだろうとわかってはいたが、それでもやはり完全に支配された。楽にキープできたことは1回もなかった。(一般的にはダブルスではネット有利だが?という質問に)向こうは僕らの陣形とかお構いなしに、ガンガン打ってくるだけ。逆にシングルスよりコートが広い分、思い切り打ってきた。たとえ読んで、ラケットの所に来たとしても、相当な重さがある。でも、なかなか読めなかった。スイングが本当に速いし、最後の最後でヘッドが出てくるから、読もうとしても読めなかった。低い打点でもショートスイングで早いボールを打ってきたし、あれほど2人ともがストロークがいいペアとは、今までやったことがない」
嶋田のコメント
「1stゲームからほとんどフリーポイントはもらえなかった。最初から最後まですごいプレッシャーだった。僕のほうはサーブのコンセントレーションがちょっと落ちて、結構イージーボレーもミスしてしまった。あの2人の強さはもちろんフィジカルにあるが、メンタルも強い。大事なポイントですごく頑張ってくる。ゴンザレスはすごいボールを打つだけでなく、それがほとんど入ってきそうだった。僕らもよく頑張ったと思うが、今日はちょっと足りなかった。(初めて入れ替え戦に出場した感想を聞かれて)今日は自分にとって初めてのことがいっぱい。クレーでのデ杯も、0-2で回ってきたのも、もちろん入れ替え戦というのも初めて。行く前から自分の中ですごくエキサイティングだった。なかなかこういうチャンスは来ない。ただ、僕は世界のトップのダブルスをずっと回っているから、レベル的にはそんなにびっくりはしなかった。一生懸命やれば行けるんじゃないかと、結構いい経験になったと思う」
神和住監督のコメント
「あれだけステイバックして、ガンガン打ってくるダブルスを久しぶりに見たけど、本当に凄かった。あそこでどういう作戦をしていこうとか、話す余地もなかった。とにかくあのスピンボールに食らいついて、ボレーを返していこうとしか、2人には言えなかった。もう目の前で見ていて、ほとんどネットすれすれだし、速いし、どっちに来るかわからないし。あれは彼らの大きな武器だ」
最終日 第1試合 第2試合
第1試合
第2試合
勝負が決まり、3セットマッチで行なわれた最終日のシングルス2試合。鈴木は、マスーに代わって出場したランク262位のガモナルと対戦。粘り強いストロークが武器のガモナルに対し、鈴木はネットプレーで果敢に攻め、日本に初めてセットをもたらしたが、ファイナルはスタミナが切れて敗退。本村は初日よりも思い切りの良いストロークでゴンザレスに立ち向かったが、接戦にまでは持ち込めず、ストレート負け。日本の0-5での敗退が決まった。
神和住監督の総括
「トータルしたら、やはり五輪の金、銅メダリストであり、実際に戦ってみて、そういうテニスなんだなというのが証明された。相手は地元での開催で、多分緊張感があったと思うが、その中でも自分のテニスをしてきた。僕らも決して悪くはなかったが、それで実力の差が出たというのが正直なところ。ただ、今回あれだけたくさんの観客が入って、金メダル直後というタイミングで、こういうフィールドでできたのは幸せなことだと思う。遠くまで来て、みんな全力で戦った。試合は負けたが、トータル的に見て、この3人でずっと頑張ってよくここまで来たと思う。それは褒めてあげたい」
写真提供:スマッシュ編集部・渡辺隆康
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