トーナメントディレクター
佐藤政廣
本大会は、27年前にJAL Cupとしてスタートし、途中Coca Cola Cupとタイトルを変え、そして、大阪市長杯世界スーパージュニアテニス選手権となって10年を迎えた。大阪市での開催10周年を記念してセンターコートのフロントロビー両側に掲げられたチャンピオンボードにその経緯が刻まれ見て取れる。
今年も選手たちの顔ぶれは素晴らしい。女子ではITFジュニアランキング1位のアザレンカ(ベルラーシ)、5位でデフェンディングチャンピオンのウォズニアッキ(デンマーク)、7位のオラル(ルーマニア)に21位の森田と68位の瀬間らが揃った。男子では3位のシャルディ(フランス)と5位のチリッチ(クロアチア)の二人が両雄となり、錦織・竹内・会田・杉田らの活躍が期待された。トップ選手の彼らはグランドスラムジュニア大会を制している。試合結果についてはすでに?日本テニス協会の秋山広報委員によるオフィシャルメールマガジンで報告されているので試合振り等についての報告はここには重ねない。
となればどのような報告かと問われるだろう。そう、貴重なこの10年間にわたる本大会が日本のテニス界に何をもたらしたのかについてお話してみたい。
そもそも本大会が大阪市で開催される主な契機になったのは、”2008年大阪オリンピック”誘致に向けて海外に”オオサカ”をアピールすることであったと言われた。横浜市と競り合い大阪市がわが国からの正式候補となり、テニス以外にもいろいろな国際大会が開催された。結果、残念ながらモスクワでの投票では厳しい判断がなされ、特に”なにわっ子”の落胆は大きかった。大阪市内には沈黙ムードが漂い、いつものとおりの各方面からの厳しい批判が寄せられたことは忘れられない。テニス協会は、確かにオリンピック誘致に役立とうと運営したことは間違いなく、と同時に、この大会を通じてどのようにしてわが国のテニス界に有用性をもたらすかに論点はあった。オリンピックに見捨てられようが、もしも実現したとしてポストオリンピックに対面したとき、大会の開催価値を何に求めるかに悶えたはずであった。だが結果、スタート当初からそのような悶えには遭遇しなかった。また、テニス協会には沈滞ムードは一瞬のみだった。大きな使命をもってスタートしたのであるが。
11年前、私はこの大会が関西で行われる可能性があると故辰馬龍雄関西テニス協会会長から伝えられ、当時の同協会の宮川郁代事務局長と共に、SSC/荏原テニスセンターで行われていた本大会の視察に出かけた。到着するや否や石井弥起君が戦っているシーンを観た。カモシカのような姿が美しかった。腰を下ろした秋晴れの風は快かったことも印象深かった。恵まれた気候と石井君のテニスの中にある二つの爽快感に二人は惹かれたと思う。是非とも実現したいと帰阪した。
だから変転する環境でありながらもこの大会は続けられてきたのである。まず「爽快感」を大会のベースに敷いていたから。加えて、グランドスラムを観戦して味わった「洗練さ」もベースにしている。いかなる種類のスポーツであっても勝者に「洗練さ」が無ければその競技はあっという間に世界から消えてしまう。テクニックの、精神力の、身体能力の「洗練さ」はついに「気品」を産む。テニスはそれにふさわしいスポーツである。これらに誰でもが触れ合える大会になればと願いスタッフ一同は携わってきたのである。大阪市もテニス協会もボランティアもその他のすべて大会に係わるものが一体となって。
確かに、ジュニアのテニスは世界一の選手といえどもプロフェッショナルな世界から見渡せば落差は隠せない。しかし、爽快感・洗練さ・気品はこれを凌駕できる力をもつ。だからジュニアテニスは未完だといわれても良い。
今回はわが国のジュニアたちが大活躍した。森田選手はシングル準優勝・ダブルス優勝、錦織選手はシングルス・ダブルス共に堂々とベスト4に。会田選手もシングルスベスト4.
杉田選手は特に素晴らしかった。10年前ではベスト16に入るのがやっとだったのであるが、前進というプロセスが着実にわが国のテニス界に敷衍されてきたのである。
しかし、まだ「爽快感・洗練さ・気品」に対して研鑽をあつかましく重ねてもらいたいのである。その場を提供できることを大阪市民は誇りに思いよろこんで応援に駆けつけるのである。
大会は初日、二日目、そして、土曜日と三日間にわたり秋雨に見舞われた。そして、迎えた日曜日。快晴だった。藤沢の秋風を思い出した。最終日に残った選手にはとても厳しいスケジュールであった。しかし、会場は午後8時に終了した女子ダブルスを戦った4人のわが国の選手たちに大きな拍手が沸いた。会場は一体となった。男女ダブルスの選手の表彰式が行われたが観客は別れを惜しむ。選手も。私たちも。
「惜しむ心」は来年の準備へのパワーにすばやく変わったことを今強く感じている。
選手の皆さん、観客の皆さん「ありがとう」。スタッフの皆さん「ご苦労様でした」。
そして、名シーンが鮮明に残っているうちに男女・単複のチャンピオンの名前を刻んでおこう。一文字に一文字に本戦で戦った128名と予選で戦った64名の名前を重ね合わせて。