全国高等学校体育連盟テニス部 副部長
沢野唯志
第27回全国選抜高校テニス大会は3月22日から27日の日程で、団体戦が博多の森テニス競技場と春日公園テニスコート、個人戦は九州国際テニスクラブで行われた。この選抜大会は「福岡経由世界行き」をキャッチフレーズに、全国高体連テニス部加盟5,800校、12万人の頂点を目指した戦いである。団体戦は、全国9地区から選抜された48校にドリーム枠2校(各地域から推薦された話題性に富んだチーム)を加えた男女各50校が参加し、昨年度から導入された個人戦の男女優勝者は9月にニューヨークで開催される全米オープンジュニア選手権に派遣されるという、まさに夢のビッグイベントとなっている。
しかし、今年の選抜大会は、開会式前日の20日に福岡県西方沖地震が発生。試合初日の22日は雨天で全試合延期、23日以降も余震が続き、季節はずれの雪が降るなどの悪条件に見舞われたが、選手たちは力いっぱいのプレーを繰り広げ大会を盛り上げた。
開会式
開会式における長岡高校菅原梨沙主将の選手宣誓は会場に大きな感動を与えた。彼女の落ち着いた、澄みきった声に目頭を熱くする観客も多かった。
以下は、その内容の要旨である。「私達はこの福岡の地でプレーすることを目標に、厳しい予選を勝ち抜き、そして今、ここに立ち挑戦できることの素晴らしさを感じています。この1年は各地で災害が相次ぎ、私が住む新潟県も中越地震で大きな被害を受けました。校舎は大きな被害を受け、学校も休校となり、仲間と会えず、大好きなテニスができない日々が続きました。しかし、ひとりひとりがこの災害に立ち向かい、また、全国各地からたくさんのご支援や励ましをいただき、頑張ることができました。
何げなく過ごしていた生活が幸せなことを知り、当たり前にあるものを大切にすることを学びました。そしてなによりも、コートに立ちテニスができることの喜びを心の底から感じることができました。
応援してくださった方々への感謝の気持ちをもち、仲間の力の大きさ、すばらしさと、この大きな舞台でプレーできることの喜びを、全身を使って思いきり表
現したいと思います。そして被災された多くの方々に元気を伝えたいと思います」
団体戦
団体戦は選考委員会でシードを4校決定し、後はフリー抽選でドローを編成している。ベスト8進出校は次の通り。男子が湘南工大付(神奈川)・柳川(福岡)明石城西(兵庫)・東京学館浦安(千葉)・龍谷(佐賀)・法政二高(神奈川)東海大菅生(東京)・関西(岡山)。女子が仁愛女子(福井)・長尾谷(大阪)筑陽学園(福岡)・共栄学園(東京)・富士見丘(東京)・明石城西(兵庫)秀明英光(埼玉)・浦和学園(埼玉)。
栄冠に輝いたのは、男子が湘南工大付(5年振り4度目)、女子は仁愛女子(初優勝)であった。湘南工大付は、実績のある選手がそろい、戦前から最有力にあげられていたが、そのプレッシャーに打ち克ち堂々の優勝であった。決勝まで進出したのはノーシードの東京学館浦安。夏には地元千葉でインターハイが開催されるが、今からその活躍が期待される好チームであった。湘南工大付を最後まで苦しめたのが龍谷。シングル1とダブルス2を取り、あと一歩まで追いつめた戦いは見事。明石城西は関西の優勝校として、シード校に相応しい試合を展開した。史上初の5連覇を目指した柳川は準決勝で涙をのんだ。捲土重来を期して、夏には巻き返しをはかりたい。
仁愛女子は、念願の選抜初制覇を果たした。1年生中心ながら優勝候補にあげられていた長尾谷との決勝は、ダブルス1が勝負の分かれ目となった。フルセットまでもつれ込み、最終セットは息詰まる熱戦の末、仁愛女子がタイブレーク(8-6)で勝利した。雪国のハンディをバネにして、「明るく、素直で元気が良い」チームを培ってきた伝統が、厳しい条件下で戦われた今年の選抜で花開いた。実力者をそろえ、前評判の高かった共栄学園は、長尾谷の前に屈した。また地元の筑陽学園はエース古賀愛美選手を中心によくまとまった好チームであった。
個人戦
個人戦は、団体戦の2回戦に進出した学校の登録NO1の選手が集まり、フィードインしながら進行される。会場は九州国際テニスクラブ、ハードコート。
昨年本大会に優勝し、全米オープンジュニア選手権に参加した井藤選手は次のように報告している。「外国の選手は、ハードコートで練習、試合しているので、とても攻めるのが早く、浅いボールなどチャンスだと思うボールは見逃さずに攻撃してきます。逆に日本の選手は、オムニコート(遅くてはずまない)で試合するので、攻めても攻めきれなくなり、粘っている選手が目立ちます。オムニコートで勝てても、四大大会にはオムニコートはありません。世界のテニスに差を付けられないように、ハードコートで試合をしたいです。また、コートは硬くてボールはよく弾みました。ボールは軽く……」
私は彼のこの言葉に世界で通用する選手を育成するプログラムに必要なヒントが隠されているように感じる。つまり、コートとボールの問題である。私も何度か海外で試合する選手の引率をしたが、彼と同じ感想を持った。ハードコートもしくはクレーコートで練習し、試合する機会を増やさねばならないと思う。
さて、個人戦では、団体戦とは質の違う攻撃的な試合が展開され、1回戦から見応えがあった。荒天のため初日は中止、最終日は博多の森屋内コートに変更せざるを得なかったのは残念であったが…。優勝したのは、男女とも本命視された、会田翔選手(神奈川・湘南工大付)と浜崎歩選手(大阪・長尾谷)であった。女子の浜崎選手は、団体個人ともに1セットも落とさない完勝。両手打ちからのダイナミックで攻撃的なテニスが持ち味である。サーブ力を強化して、更なる飛躍を期待したい。
男子の会田選手も、将来性豊かな攻撃的プレーヤーである。決勝ではあわやという場面もあったが、最後まで自分のスタイルを貫き通し、栄冠に輝いた。二人には、是非とも全米ジュニアの予選を突破して、上位に進出してもらいたい。
私が個人戦で注目したのは、決勝戦まで進出した仁木拓人選手(茨城・竹園)。1回戦から登場し、接戦をものにして勝ち進むなかで、精神的にも技術的にも成長していった。テニスに対する姿勢もひたむきであり今後が楽しみな選手である。
閉会式
今大会より、日本テニス協会から男女の大優勝旗が新しく贈呈され、盛田会長から優勝校に手渡された。昨年の大会の開会式で盛田会長が話された内容が今も心に残っている。「テニスの持つポテンシャルの高さを大切にしたい。」深い意味のある言葉である。
少子化、運動部離れの現状のなかで、高体連テニス部の加盟校と人数は年々増加している。この傾向は、キッズテニスとシニアテニスの増加へも相乗効果をもって波及していくことが予想される。テニスを文化として日本に根付かせることと、世界の舞台で活躍する選手を育てること。
深紅の優勝旗が北国の仁愛女子高校の手に渡されるという象徴的な瞬間、そのようなことを考えていた。
終わりに
大会の主役は、今年も地元の高校生審判と補助員、役員の先生方、そして個人戦でお世話になった女子連・学連の方々であった。雨でびしょ濡れになりながらも一生懸命に水取り、コート整備をし、真剣なまなざしでジャッジをする姿には頭が下がる思いであった。また、試合開始直前まで監督と選手が率先して、コート整備に励んだチームもあったと聞いた。 地震の被害に遭われた家族や知人を気遣いながらも遅くまで運営会議に参加され、ぎりぎりの状況で的確な判断を下した役員の方々に心から感謝申し上げます。
今年も爽やかな話題と明るい夢を提供し、全国選抜高校テニス大会は幕を閉じた。
スコアや情報は、全国高体連テニス部公認サイトでご覧下さい。
http://koko-tennis.com/
表彰式での盛田正明 財団法人 日本テニス協会会長のごあいさつ内容抜粋
第27回全国選抜高校テニス団体戦で優勝された、男子・湘南工大付、女子・仁愛女子の皆さん、優勝おめでとうございます。また、今回は惜しくも準優勝、3位となった皆さんにもお祝いを申し上げます。
日本テニス協会では、団体戦に優勝された選手たちの栄誉をたたえたいと考え、今大会から優勝旗を作りました。この優勝旗を作るにあたって、私たちは2つの願いを込めています。
1つは、優勝した選手はもちろん、日本の高校テニスの最高位の選手がさらに一段と腕を磨いて、国内の大会だけではなく、将来の日本を代表して世界の大会で活躍できる選手になってほしいという願いです。
もう1つは、今回活躍した選手がテニスの技量と精神力だけでなく、コート上におけるテニス選手のマナーやスポーツマンシップの点においても日本の最高位であってほしいという願いです。
高校時代にテニスに熱中することで、テニスが強くなり体力も強健になるということだけでなく、「テニスを通じて将来立派な社会人となるための、正しいマナーとスポーツマンシップを備えた人格が形成されること」が大変重要なことだと考えています。
ぜひこの2つを実現するために、益々努力して頂きたいと思います。
(3月27日閉会式でのメッセージ)