トーナメントディレクター・日本テニス協会常務理事
佐藤 政廣
本大会が大阪市に会場を移して9年が経過した。物事や習い事が花を咲かせるのに10年を要するとは、まことにその通りである。
大会は連日の晴天に恵まれ、平日には1日平均概ね1,000人、土曜日は概ね3,800人、日曜日は概ね3,450人の観客が、世界のトップジュニア達のプレーに拍手を送り続けた。週末の2日間は、靭のセンター・コートがほぼ満杯の中で試合が展開された。準決勝・決勝に出場するジュニア選手達は一様に眼を丸め、いささかの緊張感も持ち合わせて、どのゲーム、どのポイントにも、テクニック・戦術に歯切れあるアクセントと充実感をパフォーマンスしてくれた。
さて、本大会で報告にあわせて発信することに次の三点がある。
(1) 選手の低年齢化
(2)アジア勢の台頭
(3)世界を転戦しなくてはチャンスが無い
これらについて述べてみたい。
(1) 選手の低年齢化
女子シングルスの決勝は、デンマークの14歳が、スロバキアの15歳をストレートで押さえて優勝した。今年のAIG JAPAN OPENで15-17歳の女子選手が活躍したことを思い返せば、その登竜門の一大会としてある本大会に、低年齢域の選手がタイトルを取得しても当然だろう。選手の低年齢化が世界のテニスコートで叫ばれて20年にもなるが、これは競技年齢が低くなったということではなく、プロとして生活できる基盤をもうこの時期に手中にしたということである。確かに、成熟度の差が与える影響について、多くの指導者は日本の選手がビハインドにあると言うが、今回ベスト4に終わった台湾の選手は15歳になったばかりである。アジアにもあえてこの差を持ち込むのだろうか。
さらに、男子選手を見ても、平均年齢が15.6歳と、9年前の平均年齢17.1歳を大きく縮めている。男子の多くの選手達に聴くと、16歳でチャンスを掴まないと将来は難しいと言う。16歳にして近未来テニスに戦うために必要なビッグサーバをすでに具現している。コーチングが常に世界のテニスのトレンドを見ながら細かくかつ大胆に実施されていることに、いささかの戸惑いを隠せないのだ。
これらへの対策として日本テニス協会は、14歳までの選手育成の道筋を至急に提示しなくてはならない。その例は、世界のいろいろな国々を回ってみると良い。多くのヒントがあふれている。足が棒になるぐらいの視察を指導者と呼ばれる人達がこなすことによって、世界の低年齢化に遅れない対策を講じることが可能であると信じる。
(2)アジア勢の台頭
今回の男女とも第1シードは、男子が韓国、女子が台北であった。男子は第2シードも韓国選手であり、私がこの6月にローハンプトンで彼らのプレーを見て、もしも彼等が本大会に参加すれば決勝は二人の戦いになると密かに思ったことが現実になった。優勝したJIUN選手は18歳であるが、すでに16歳でプロになっている通り、集中力と爆発力がさらに高くなっていた。アジア勢がサーブ力に欠ける、体力に欠ける、テクニックも課題が多い、と言われた時代は既に終焉している。何故なら、今年度よりITFジュニアランキングは、ダブルスとシングルスのコンバインで位置づけられる。テクニックの必要なダブルス、シングルス・ダブルスを行う体力、そして、韓国だけでなく、タイ、台北選手達のビッグサーブとどれも世界のレベルをクリアしている。
本年度のウインブルドンの一般種目には、韓国・台北・タイの選手がメインドローに出場している。これらの国々のジュニア達が彼らを身近なロールモデルとし、自分達も世界のステージに立てるのだ、と語ってくれたその眼は輝いていたことを印象強く私は受け止めた。
しかし、我が国の選手達を見て指をくわえているわけではない。男子には藤井貴信らが、女子には瀬間詠里花らがアジアのトップ勢の集団に入ろうとしている。マラソンで言えば折り返し点で、走者との感覚は接近していると思う。折り返しのあとは、どのようにゴールまで自分をマネージメントするかである。彼らに対するコーチングの折り返し点でもある。高いレベルのコーチングを日常的に発揮しないと日本のテニスの前途は、一年遅れの戦略に終始しなくてはならない。
(3) 世界を転戦しなくてはチャンスが無い
毎年思うことに、海外から到着し一休みしてから、コートで汗を流すコーチと選手を見ていると、何時間もあるいは一日までも要した長旅にもかかわらず、すぐに現地の気候や雰囲気に慣れようと努力する姿には感心させられる。ファーストラウンドのゲームに向けて、一つ前の大会を終わった時点で次の大会へと調整されていた時代はもう昔のことになってしまった。
シニアと異なりジュニアという時代は思春期を前後にして、発達の部位と程度が異なりながら成熟していくと言うプロセスにある。だから、ピリオダイゼーションと言われる「練習・競技・練習・休養」というサイクルを、人間としての成長に沿いながら組み立てることが重要になってくる。そして、各プレイヤーのピーク・パフォーマンスを中・長期的に定めて実現する場とチャンスを提供するために、実は、ITFジュニア・サーキットが、その世界サイズの受け皿としてあることを忘れてはならない。
一面、ジュニア・サーキットはプロへのステップの大会と言われているのは事実であり、それはそれでよいかもしれない。しかし、ほとんどの賢明なジュニアは、人生の一番輝かしい時代に、自己の可能性という未知の世界に、現実の世界をダブらせてツアーに挑戦し続けているのである。テニスの可能性と人生の可能性。世界を転戦してスポーツから何かを得られるチャンスとはそういう意味なのである。このことを指導者もプレイヤーも思わずしてただ「世界を転戦」するということを標榜してはならないと思う。この深い意味を理解して強剛な意志へと転じてこそ、初めて世界で活躍するノバ(新星)が誕生するのである。
そして、ジュニアテニスの世界の最高峰の一つが「大阪市長杯世界スーパージュニア」であり、いずれかの日に、共に最高峰に登った彼らの叡智が、多くの人達の人生を有意義にすることを、本大会を支援する私達は願っているのである。
来年は本大会が大阪市に移されて10年目を迎える。参加した諸外国のプレイヤーやコーチ、運営する大阪市関係の方々、テニス協会やボランティアの皆さん、そして観客の皆さん達が、テニスは素晴らしい、戦いのシーンが心にいつまでも残る、そのような大会を目指して明日からの準備がスタートする。
2004大阪市長杯世界スーパージュニア決勝記録
少年シングルス
| ○ |
JUN, Woong-Sun
(韓国/第2シード) |
|
● |
KIM, Sun-Yong
(韓国/第1シード) |
少女シングルス
| ○ |
WOZNIACKI, Caroline
(デンマーク/第9シード) |
|
● |
CIBULKOVA, Dominika
(スロバキア/第4シード) |
主な日本人ジュニアの戦績
少年シングルス
- 杉田祐一(湘南工大附高)… ベスト8
- 会田翔 (荏原SSC)…… ベスト16
- 藤井貴信(ロイヤルヒル'81TC/第7シード)… ベスト16
少女シングルス
- 瀬間詠里花(ビッグK/第11シード)… ベスト8
- 森田あゆみ(PITA/第5シード)… ベスト16
主な日本人ジュニアの戦績(ダブルス)
- 男子:竹内研人、天野真廣/ベスト4
- 女子:福井恵実、前澤かおる/優勝
大会結果は下記からご覧下さい
http://www.jta-tennis.or.jp/tournaments/game/superjr.html