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宮城・加茂組、全米ダブルス優勝の軌跡

全米制覇、潔しとせず
悪天候後押し、奇策的中

1955年、日本テニス協会史に「全米オープン男子ダブルス優勝」という金字塔が打ち建てられた。後にも先にも、四大大会で同じ快挙を成し遂げた日本男子はいない。宮城淳・加茂公成ペアは、いかにしてその栄冠を勝ち得たのか? 

文:小沢剛(共同通信編集委員)

いくつかの幸運にも恵まれ
全米制覇を成し遂げた宮城・加茂ペア

1983年に刊行された日本テニス協会60年史に 宮城淳(83)はこう記した。「大きなトーナメントで勝った程の感激もなかった」。1学年下の 加茂公成と組んで、55年の全米ダブルス選手権に優勝した感想である。

現在の全米オープン男子ダブルスの前身で、テニスの四大大会を制した日本男子は、この後一人も出ていない。戦後の快挙の一つと言えるが、喜びの色は薄い。いくつかの幸運に恵まれたことが、手放しの喜びをはばかる心情を生んだ。

1955年全米オープンダブルスで宮城淳・加茂公成ペアが獲得した優勝トロフィー。刻まれた「WINNERS ATSUSHI MIYAGI‐KOSEI KAMO」が輝かしい 

デ杯東洋ゾーン勝利後に、アメリカへ
そこに待ち受けていたハリケーン

背景にデ杯が深く関わっている。この年5月、新設されたデ杯東洋ゾーン決勝で、宮城加茂の日本は宿敵フィリピンを破り、欧州、米州の各ゾーン優勝国と争うインターゾーン進出を決めた。

デ杯戦が日本で開かれるのは初めてとあって、会場の東京・田園コロシアムに1万人の観衆が詰めかけた。入りきれない人は隣接する小学校校舎や私鉄線を挟んだ崖上の桜の木に登って見守った。加茂は足のけいれんをこらえてデイロを破り、宮城は緊張から視野狭窄(きょうさく)を覚えながら技巧派のアンポンを下した。
そうして進んだインターゾーンだが、8月にニューヨークで行われた初戦で、前年のウィンブルドン準優勝者、ケン・ローズウォールを擁するオーストラリアに完敗。1週間おいて全米ダブルスである。場所はボストン。当時の全米選手権はシングルスとダブルスが期日も場所も別々だった。
ところが、ボストンをハリケーンが襲う。悪天候は1週間続いた。全米ダブルスの翌週に予定されていたのがデ杯決勝。インターゾーンを突破したオーストラリアが前年優勝の米国に挑戦するチャレンジラウンドがニューヨークで開かれることになっていた。
デ杯か全米か。今なら逆かもしれないが、当時、国を背負うデ杯のステータスは極めて高かった。米国のトニー・トレバート組やオーストラリアのレックス・ハートウィグ組、ローズウォール組の「世界3強」がボストンを去った。

デ杯東洋ゾーンを勝ち抜いてアメリカへ。デ杯でオーストラリアに敗れたあと、全米ダブルスが開催されるボストンへ。そこでドラマが起こった。写真左から宮城、加茂、原田武一デ杯監督とハリー・ホップマン監督率いる豪デ杯チーム

英国デ杯選手ペアに敗戦のピンチ
そこで講じた奇策が「奇跡」を呼び込む

 さらにインターゾーン決勝をオーストラリアと争ったイタリアの強豪も早々に姿を消した。外国勢の第5シードだった宮城組に道が開かれた。
 最大のピンチは準決勝だった。英国デ杯選手ペアに最終セット1―5。球足の速い芝コートでサーブは英側だ。後がない。「99パーセント負け。加茂君と“まともにやっても駄目だ。ロブを上げてみようか”と話した」。破れかぶれだろう。
 ところが、宮城がレシーブでいきなり上げたロブがネットに詰める英国勢の頭上を越す。慌てて後退する相手に対して日本ペアはネットを奪って攻めた。続く加茂もロブを上げ、英国のリズムをすっかり狂わせた。こうして追いつき、8―6で大逆転。「奇跡的ロブだった」と振り返った。
 決勝では、前哨戦で2度下した米国の若手ペアを押し切った。
 悪天候に恵まれたとはいえ、ツキだけで優勝できるわけがない。それでも「あの頃はデ杯が一番の目標。それに負けて…。デ杯の後も米国で大会があるから出て行こうと、そんな感じ」と淡々と語る。たとえ世界トップが不在でも、決勝の相手が格下でも、偉業は偉業。だが、それを潔しとしない。背筋を伸ばした昭和のスポーツマンのたたずまいが、そこにある。
 宮城にとって、23歳で挑んだこの年の全米が生涯最後の四大大会だった。当時は外貨不足から海外遠征は日本を代表する場合に限られ、個人の遠征など不可能。デ杯で56年以降、インドなどに東洋ゾーン突破を阻まれた日本にとって、55年は戦後訪れた一瞬の輝きだった。

*敬称略。文中の年齢は2015年5月現在


あと1ゲームで敗戦…そこで加茂公成と共に「奇跡的ロブ」を考え出した宮城淳。現在も元気にプレーを続ける姿はさすが全米ダブルスチャンピオン

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