知ってほしいドーピングの知識(その5):
(財)日本テニス協会発行「JTA NEWS」Vol.57,1999.8.10より

 
日本テニス協会ドーピングコントロール委員会
  横浜国立大学教授
蝶間林 利男
  聖マリアンナ医科大学教授
別府 諸兄
  助川クリニック院長
助川 卓行

●過去の連載

 今までに「知ってほしいドーピングの知識」を4回にわたり連載してきました。(1)Vo1.52ドーピングとは?ドーピングの歴史について(2)Vol.53検査の手順、Q&Aの形で、どんなクスリや飲み物がダメなのか(3)Vol.54/55テニスとドーピングについて、国内におけるドーピング検査の実施について(4)Vol.56最近のドーピングの話題、初めて行ったドーピング検査の結果について少しずつでもアンチ・ドーピングについての理解が果まったのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

●ドーピングにおける間題


 ドーピングの問題は、なにもプロの選手や全日本レベルの選手だけの話ではなく、一般のテニス愛好家の方にも関係あることなのです。どんなスポーツにもルールがありますが、ドーピングも同じように、違反までして試合に勝とうとすること自体が、アン・フェアなことなのです。また、ドーピング薬の中には、筋力増強剤(蛋白同化ステロイドホルモン)などのように、クスリを飲み続けることにより、身体を壊す場合もあります。命を縮めても試合に勝ちたい。それは名誉や地位、そして経済的な波及効果を考えてのことでしょうが歪んだ精神と思われます。また、自分では違反する意志はなくとも、うっかりミスで市販のカゼ薬やドリンク剤などを飲んでしまうこともあります。実際に、前回の全日本テニス選手権大会でも、カゼ薬を飲み、ドーピング検査で陽性者が出ました。特に海外の遠征に行く選手や、ジュニアも含めて、全日本クラスの選手は、ふだんからドーピングにかからないクスリの処方を医師から受けるくらいの注意が大切です。

●ドーピングとクスリ

 そこで今回は、ドーピングとクスリについて少し話をしたいと思います。

◆ルールの改訂

国際オリンピック委員会(IOC)は今年の1月に、ドーピングについてのルールの一部を改訂しました。(別表)この改訂は、主に禁止薬の新規追加、使用薬の投与可能条件の厳格化、血液ドーピング(人工血液)禁止の追加、利尿剤の禁止、制限物質の検査責任組織の明確化カンナビノイド(マリファナ類)のオリンピックでの禁止、競技会での事前申請についての責任組織の明文化、などです。

■表・lOCドーピンク禁止リスト

(1999年1月31日現在)
T:禁止物質クラス
 A:興奮剤(総合感冒薬・喘息薬等)
 B:麻薬系鎮痛剤(法的規制もある)
 C:蛋白同化作用物質(自然・合成ホルモン類)
 D:利尿剤(隠蔽等と見なされる)
 E:ペプチドホルモン類とその模造・類似物質(ヒトのホルモン剤)

U:禁止方法
 A:血液ドーピング(人工血液も含む)
 B:薬理学・化学・物理学的操作(検体への操作)

V:制限を受けることのある薬物クラス
 Aアルコール(一部の競技で禁止)
 B:大麻・マリファナ類のカンナビノイド(オリンピックでは禁止)
 C:局所麻酔剤(全身投与禁止)
 D:副腎皮質ステロイド類(全身投与禁止)
 E:βブロッカ類(一部競技で禁止)


 一般にドーピング薬として、まず頭に浮かぶのは、筋肉増強剤や興奮剤などのクスリですが、摂取した薬物の証拠を消す意味で、体から早く排出する利尿剤も禁止されています。ダイエット食品や飲み物の中には、この利尿剤を混ぜたものもあります。

◆ドリンク剤やコーヒー、コーラはどうなの?

 クスリだけではなく、ふだん意識していないドリンク剤、コーヒー、コーラなど、身の回りには違反薬物が含まれたものが数多くあります。もちろん、食品によっては、日常飲む程度では、まず問題はないのですが、用心に越したことはないでしょう。市販の強壮剤や体毛用薬の中には、メチルテストステロンなどを含むクスリもありますので注意が必要です。

◆サプリメントは?

 栄養補助食品といわれているサプリメントですが、日本のメーカーでは、まず問題ありませんが、成分の表示のないもの、輸入ものの中には、禁止物質が含まれているものもあります。サプリメントは、あくまでも食事の補助なのですから、食事を十分にとらないでサプリメントで栄養をとろうとするのは、間違っています。あくまでも食事が基本なのです。コンディション作りのため、サプリメントやビタミン剤などを利用する選手がいます。一概に使用を否定するものではありませんが、あくまでもこれに依存せず、欠食や偏食をなくして、食事を基本としてほしいものです。

◆カゼのときはどんな薬を訳むの?


 カゼに限らず、病気やケガのときは、クスリを使用したほうが早く症状が改善する場合があります。このようなとき、どんな薬がよいのでしょうか。ドーピング禁止薬物が含まれているクスリをすべて暗記しているドクターはいません。まして、数多くある市販薬の中から、ドーピングにかからないクスリを、一般の人が選択して購入するのもむずかしいなことです。多くの市販のカゼ薬(漢方薬も含めて)には、禁止薬物が含まれています。そこで、スポーッドクターなどに相談して、クスリを処方してもらうほうが安全です。不明な点や疑問があれば、JTAのドーピング・コントロール委員会まで問い合わせてください。
 
 委員会では、禁止薬物を表示した、簡易なクスリの目録の作成を予定しています。これは、ATPツアー、WTAツアー、ITFなどで現在、選手たちに配られているテニス・アンチ・ドーピングプログラムを訳したものです。これからも、いろいろな機会にアンチ・ドーピングの啓蒙を進めていくつもりです。ドーピングの検査が、あらゆる競技に広がり、オリンピック大会はもちろん、国際大会で行われへかっ罰則が厳しくなってきている現状を考えること、もっとアンチ・ドーピングということに注意を払ってほしいものです。

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