副会長 明石 康
紛争と対立は人間社会に常に存在するものです。問題は、どのようにして暴力や出血という悲劇が起きないようにするかということです。また、暴力がないだけでは、真の平和とはいえません。真の平和は、人々や国々の間の自由な交換、交流、友好に基づく相互理解と信頼に支えられたものです。
スポーツは人間の能力の限界を試す、ルールに基づくフェアプレーの精神による競争であり、それは個々人の充実、コミュニティの安定、国の発展、隣国との友好など、平和に大きく寄与するものです。また、逆に平和な環境は、スポーツの発展や振興に大いに貢献するものです。スポーツは、真の平和と発展のためになくてはならないものといえるでしょう。
20世紀前半は、国家の対立、国家間同盟の対立がスポーツと文化の自由な交流を妨げました。20世紀半ばでは、ベルリンの壁に象徴されるようにイデオロギーの対立が世界を分けました。ポスト冷戦期は主として民族、宗教、歴史、文化の違いによる国内紛争が次々と吹き出すことになりました。それぞれの紛争は、人々の顔が違うように、違う顔を持っています。その原因や背景も様々で、貧困と格差の問題といった経済的・社会的な要因から、指導者、支配層の考えの違い、メディアによる煽動など政治的、心理的要因があります。
オリンピックは、1986年以来、その時々の国際情勢に左右されたり、大会の肥大化、商業化、また民族主義を煽る面があるなど色々な批判を受けてきました。我々は、いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって相互に理解しあうことを要求するオリンピック精神やオリンピック休戦の理念に立ち返ることが必要でしょう。
オリンピックは単なるスポーツの世界選手権の集大成ではありません。東京、ソウルそして昨年の北京大会は、植民地主義、帝国主義に苦しんだ人々が、民族の誇りを取り戻し、国際社会における重要な国として認められる「新興国の成人式」であったといえるでしょう。また、長野、シドニー、ソルトレイクシティなどの最近の大会では、「一校一国」や「一村一国」など、心温まる国際交流を進展させ、教育上多大な効果をあげました。98年の長野オリンピック冬季大会前年には、国連総会で日本のシンクロナイズドスイミングの小谷さんが「オリンピック停戦」をテーマにスピーチをしました。国連アナン事務総長の働きかけがあって、アメリカのイラク攻撃が延期されました。オリンピックは、まさに世界平和への国際貢献活動の一つとして、大きな役割を担っています。
真の平和の重要な柱は、互いの文化や慣習や思想の違いを知り、それを喜び、他者への寛容を育てること、同時に、この地球において、核の拡散や感染症や、人口、環境の問題といった人類共通の脅威に直面した時に、共通の課題に多くの国々が対処し、共生の喜びを認識できる心を育てること、といえるでしょう。この意味で、オリンピック精神、オリンピック運動、その基盤となるスポーツはきわめて重要な役割があるのです。
スポーツの持つ大きな意義を心にとめて、テニスという素晴らしいスポーツを益々普及させるため、今年も日本テニス協会の皆様方のご尽力とご活躍をお願い申し上げます。