日本テニス協会 専務理事 渡邊 康二
もっと もっと ! -その5-
もっと賞金トーナメントを考えよう
――ゴルフ界との比較において――
テニスとゴルフは、ともに欧米から入ってきた西洋のスポーツで、それぞれ100年以上の歴史を誇り、基本的に個人スポーツです。その上、オリンピック1900年の第2回パリ大会では、初めて女子選手の参加が認められ、12名が参加しましたが、それがテニスとゴルフの2競技であったというのも何かの因縁で、なぜか親しみとともにライバル心も感じています。
ところが、最近の日本では、テニスがゴルフに遅れを取っているのが残念です。お金のことを云々することは、テニス界ではあまり歓迎することではない事かも知れません。しかしながらゴルフ界では、既に獲得賞金額でランキングを決めていますし、トーナメントも賞金額によって格付けされています。テニス界もプロスポーツの中でもメジャーな地位を狙おうとするのであるならば、やはりそのスポーツのマーケットバリューを大きくし、同時に運動能力に長けた多くの若者たちに、魅力ある収入を提供できるスポーツとなることが必要不可欠であります。
この意味から、この二つのスポーツを比較してみたいと思います。
1.テニスとゴルフ 世界トップの年間獲得賞金額比較(2008年)
以下の金額は、テニスの数字はATP,WTAの、またゴルフの数字は、ジャパン・ゴルフツアーもしくはLPGAのそれぞれのオフィシャルページから公表されている数字を拾った、あくまでも推定概算値を記述しております。
なお単位は円で、為替換算は、1US$=\100, 1?=\140, 1£=\170 として計算しました。
テニス
男子 ①R.Nadal(6.8億円) ②R.Federer(5.9億円) ③N.Djokovic(5.7億円)
女子 ①S.Williams(3.9億円) ②V.Williams(3.8億円) ③J.Jankovic(3.6億円)
ゴルフ
男子 ①V.Singh(6.6億円) ②T.Woods(5.8億円) ③P.Mickelson(5.2億円)
女子 ①L.Ochoa(2.8億円) ②P.Creamer(1.8億円) ③Y.Tseng(1.8億円)
この場面、世界の男子ではテニス、ゴルフではまったく互角。女子ではテニスが優位と見えますが、L. Ochoa選手は2007年には4.4億円を稼いでいますので、ほぼ対等と言えるでしょう。
ところが、この舞台が日本に移ると局面が変ってきます。
2.日本選手の獲得賞金額比較(2008年度)
主なテニス選手
男子 ①錦織圭(国内1百万円、海外29百万円) ②添田豪(国内3百万円、海外7百万円) (その他の選手はATPサイトからご確認下さい。)
女子 ①杉山愛(国内1百万円、海外70百万円)②森上亜希子(2007年度国内0、海外26百万円)③中村藍子(国内2百万円、海外19百万円)④森田あゆみ(国内4百万円、海外11百万円)
主なゴルフ選手
男子 ①今田竜二(国内0、海外303百万円)②片山晋呉(国内172百万円、海外8百万円)③矢野東(国内 137百万円、海外0)④谷原秀人(国内110百万円、海外0)⑤石川遼(国内106百万円、海外0)
女子 ①古閑美保(国内121百万円、海外?)②横峯さくら(国内120百万円、海外?)
③福島晃子(国内 91百万円、海外?)④上田桃子(国内54百万円、海外41百万円)
注1:森上選手は、2008年は怪我のため全仏以降賞金なし。よって2007年度の獲得賞金額を掲載。添田選手の国内賞金には225万円の全日本選手権大会シングルス優勝賞金を含む。
注2:ゴルフ界では、上記の選手以外に、男子丸山茂樹選手、女子宮里藍選手が米国で活躍中だが、海外での獲得賞金は、ランキング規程により加算に制限あり。
以上のことからすると、テニスプロ選手は圧倒的に海外の賞金に頼り、ゴルフプロ選手は国内で悠々と稼ぐことができる訳で、体力面、移動経費面でも非常に有利な環境にあると言えるでしょう。市場としても、大きく水をあけられている状況です。
3.生涯賞金
杉山選手は、2009年のウィンブルドンにおいてダブルス1回戦を勝ち、シングルス2回戦のパラサントンハを破った時点で、生涯獲得賞金額が8百万ドルを突破しました。2008年に7百万ドルの大台を越え、また今度は次のランドマークをも越えてゆきました。この数字は、これからテニスを始めようとする子供たちにはこの上もなく大きな夢を与える数字であります。プロと言う限りにおいては、やはりその職業でどれだけの収入を得られるかと言うのが、そのプロスポーツのステイタスでもあります。
ゴルフ界では、尾崎将司選手の生涯賞金は、約27億円で、PGAツアー参加者であればベスト10にリストアップされる金額です。(ちなみに1位はタイガー・ウッズの86億円、9位はジャスティン・レナードの28億円強、10位は、スチュアート・シンクの26億円強)
2008年度末における世界の生涯獲得賞金額リストでは、杉山選手の765百万円は、歴代23位にリストアップされています。2003年度には単年度で125百万円を記録していますが、これらの記録を破る日本選手がこの先出てくるのでしょうか?女子1位はダベンポートの22億円ですが、ウィリアムズ姉妹が、既に2009年に生涯賞金額で1、2位の座を獲得することになりました。一方これからスタートする19才の森田選手も6月22日現在で、今年度の獲得賞金額を1千万円台に乗せ、昨年度の海外での獲得賞金額を上回るのは時間の問題となり、このような記録が公表されることで、テニスに注目が集まれば良いと思っております。
同様にテニス男子の1位は45億円のフェデラー、2位は43億円のサンプラス、アガシの31億円、ベッカーの25億円と続き、5位に21億円のナダルと続きます。日本の男子で生涯賞金ランキング1000位までに名を連ねる選手は、松岡修造選手(385位)、鈴木貴男選手(570位)、本村剛一選手(679位)、トーマス嶋田選手(711位)、デビューして間がない錦織選手(723位)、岩渕聡選手(801位)、添田選手(891位)などとなっています。もっともっと名を連ねて欲しいものです。
一方世界のゴルフ界では、生涯賞金ランキングに61位丸山茂樹選手(13.6億円)、144位に今田竜二選手(6.7億円)、女子では64位に岡本綾子選手(2.7億円)70位に小林浩見選手(2.5億円)、91位に宮里藍選手(2億円)らがリストアップされています。これからしても杉山選手の8億円はまさに燦然と輝く金字塔と言えるでしょう。
4.国内の賞金大会
(1)プロゴルフの賞金額
男子は、2008年度と同数の25大会で、賞金総額2億円を超す大会が3大会あり、1大会平均が137.2百万円となっています。また女子も1億4千万円クラスが3大会で、1大会平均賞金額は、85.9百万円。夢のような数字です。
(2)テニスの賞金大会 一方テニスの賞金は、ここに並べるにはいささか恥ずかしいような賞金となっています。
男子 |
女子 |
|||
| ATP (US$ 1,226,500) | 1大会 | WTA (US$ 2,000,000) | 1大会 | |
| WTA (US$ 220,000) | 1大会 | |||
| ITF (US$ 35,000) | 2大会 | ITF (US$ 50,000-100,000) | 6大会 | |
| ITF (US$ 15,000) | 2大会 | ITF (US$ 25,000) | 8大会 | |
| ITF (US$ 10,000) | 5大会 | ITF (US$ 10,000) | 7大会 | |
国際大会計 10大会 US$ 1,376,500 |
23大会 US$ 2,915,000 |
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| 全日本選手権大会(\ 12,500,000) | 1大会 | 全日本選手権大会(\ 12,500,000) | 1大会 | |
| JTT大会(神戸) (\ 6,500,000) | 1大会 | JTT大会(神戸) (\ 6,500,000) | 1大会 | |
| JTT大会 (\3,000,000) | 8大会 | JTT大会(京都) (\ 6,500,000) | 1大会 | |
| J1 大会 (\1,500,000) | 2大会 | JTT大会(\3,000,000) | 3大会 | |
| J1 大会 (\1,000,000) | 15大会 | J1 大会 (\1,000,000) | 7大会 | |
| J1 大会 (\ 500,000) | 50大会 | J1 大会 (\ 500,000) | 12大会 | |
| J1 大会 (\ 200,000) | 52大会 | J1 大会 (\ 200,000) | 62大会 | |
国内大会計 129大会 総額 \96,400,000 |
87大会 総額 \59,400,000 |
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国際大会+国内大会総額 約234百万円 |
総額 約351百万円 |
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以上のことから観察されることは、ゴルフの大会と肩を並べられるのは、わずかに男子は楽天オープン、女子は東レPPOの2大会くらいしかなく、誠に肩身の狭い思いであります。特に国内だけに目を向けた場合、男子の賞金総額50万円以下の大会が102大会、女子では74大会となっており、いわゆるJOPポイントの大会であるにしても、強化か普及か、どこに軸足を据えているのかまったく不明確な大会が目白押しとなっている状況であります。
これでは日本の選手が日本に留まらず、勢い海外に出て、海外を生活基盤にしなくてはならない事情が良く判ります。
5.今後の進むべき道
そこで、これからもっと考えなければならないこととして、
◆JTAとして、もっと選択と集中を
男女合わせて一般選手権大会だけで200を超すトーナメントがあり、その80%が一大会賞金総額50万円以下の大会で、エントリーフィーは約1万円、優勝賞金が10万円以下。これで賞金大会が十分用意されているとするならば、大変な誤認識と言わねばなりません。JTAとして為すべきは、大会数を絞る事により、需要と供給の原則から、競争条理の中でのトーナメントの質の向上を目指さなければなりません。トップ選手の殆どが、海外にその活動の場を求めているのであれば、国内の大会は男女それぞれ15大会もあれば十分ではないでしょうか。賞金総額に一定の基準を設け、それをクリアーする大会のみをオフィシャルトーナメントとして認めてゆく。できなければできないでじっと耐えて待つ。そうすれば新しくできたトーナメントは注目され、スポンサーにも喜ばれ、価値が上がる。ここを狙いたいものです。
◆運営者側として、もっと趣旨を明らかに
トーナメントは、ともすれば毎年の繰り返しで、マンネリに陥る危険性があります。前にもこの欄で書きましたが、協賛金、入場料、商品販売の三大収入がバランスする事が興行としては重要とされています。ところが、観客はいない、入場料は取れない、プログラムも作らない、協賛金は選手のエントリーフィー、このような大会は、運営する側の努力がどこに向かい、何を期待しているのかまったく不明で、存在価値が判りません。努力を期待するなら、認可する賞金総額の最低ラインを年々徐々に上げてゆくべきでしょう。あるいはこの大会は、趣旨として新しい試みを実施するので、注目して欲しいというような工夫が必要です。
◆選手としてセカンドキャリアーも念頭に
アメリカのプロ選手は、慈善事業に非常に熱心だそうです。その活動によって、ファンや社会からの尊敬を集め、評価を高め、そしてそれは引退後のセカンドキャリアライフや、年金額にまで影響を及ぼすことにもなります。日本のテニス選手は、先にも述べましたが、国内でその勇姿をファンの前で披露する機会がないのは事実です。しかしながら、僅かの機会でもあったら、国内ファンに見てもらうべきでしょう。コンディショニングや、下手な試合はできないという自尊心が邪魔する事もあるでしょうが、世間は強い選手を見たいわけではありません。あの有名な選手はどのような人間性なのだろうということを知りたいのです。オンコートでも、オフコートでも思い描いた像とは違うところが見えれば、それはそれで大変な価値があるのです。飾らない姿に心打たれる経営者が少なくない事を知っておくべきでしょう。
◆愛好者としてできることは「観ること」
テニスのTV放送で、地上波放送がどんどん減少する傾向にあります。昔はグランドスラム大会すべてが地上波で観戦できました。BS、CSに移行するのは致し方ないにしても、野球が、サッカーが、バレーボールが、卓球が、そしてフィギュアスケートがそれぞれゴールデンタイムに地上波で実況されているのを見ると、羨望の念は隠しきれません。ところがテニスのファンは、観るよりも自分でやる方がいいと言う方が多いのでしょう。ジャパンオープンもNHK地上波で夕方に放映しても4、5年前までは2%台に乗っていましたが、今や1%台に落ちてきています。一方では、有明に足を運んでいただく観客数は増加しつつあります。これをどのように解釈し、どのように対策を打てばよいのか、じっくり検討しなければなりませんが、とにかくファンの皆様にはTVにしろ、現地にしろ観ていただかなくてはなりません。観ていただく事によってスポンサーに喜ばれ、選手や運営側にも張り合いが生まれてきます。こうなるとすべてが好循環となって良い方に向かうスパイラルとなって現れてきます。テニス関係者の小さな努力の結集が大きな変化、波となって現れる日を心待ちにしたいものです。
以上