[Skip Navigation]

“金メダルを目指そう!”

[更新日:2009/8/27]

平成21年正月元旦

日本テニス協会 会長 盛田 正明


盛田 正明 会長金メダルを目指そう!

1)先を読む難しさ

もう今更言うまでも無い事だが、昨年から世界中を襲った大不況は、私達テニス界にも色々な形で影響を受けている、今年は本当に厳しい年になった。

起こってしまってから、この様な世界同時不況が起こるのは過度のマネーゲームの結果として当然の帰結であったように経済学者や評論家の先生方は言っておられるが、何故起こる前にそれをもっと声高に言って貰えなかったのだろうか、何事も起こった後で其の原因を言う事は出来るが、先を読んで言う事は本当に難しい事だと思うのである。

話は変わるが、昨年世界の大会で大活躍をして一躍有名になった錦織圭選手について、私がいささか彼を応援していたと言う事で、テニスを教えると言う事にはズブの素人の私にまで沢山のテニス記者の方達のインタビューを受ける事となってしまった。

そこで良く質問されたのは「最初に圭君に会ったのは彼の何歳の時でしたか?」「11歳ですね」「其の時の彼はどうでしたか?何か光るものが有りましたか?」

恐らく「彼には他のジュニアには無い並外れたものを感じた」と言う答えを期待されていたのだと思うが、残念ながらその当時の私にはそう言うものを感ずる能力はなかったように思う。勿論彼が日本の中ではトップ・トップの成績を挙げていたジュニア選手で有った事は確かだったが、「いやー、一見しただけで世界で活躍出来そうな凄いジュニアが来たと思いましたよ」と、今言うのは簡単だが、其の当時、正直言ってこれほど早く世界の舞台で活躍出来る選手だとは11歳の彼を見て感ずる事は出来なかった。

併し私達は常に先を読む必要が有るのだ。

企業の経営に携わっていた頃に、よく経営者の重要な資質は「洞察力」だと言われた。天才ならいざ知らず、我々凡人には残念ながら見えないものは見えないのである。

見えないものを見える如く言うのは易学者だと思うが、あれは過去の統計学から来ているもので、満更いい加減なモノではないと思っているが、当たるも八卦当たらぬも八卦である。  では、我々はどうしたら良いか。

私の考えでは、現場で起こっている小さな変化の中から、此れは短期的な変化か、長期的に起こる変化の兆しかを見極めて、其の長期的に変化するであろうモノを良く観察し、今後起こるであろう変化を予測し、素早く対処する以外に方法は無いのだと思っている。

良く「現場主義」と言われるが、現場へ行けば良いと言うものではなく、優れた経営者は現場でのそう言った小さな世の中の変化を嗅ぎ分ける能力を持っているのである。小さな変化を見つけた時点から如何に素早くそれに対処するかで企業の優劣がついている様に思う。

テニスに就いても、錦織選手があそこまで短時日で成長したのは、彼を指導したIMG Academyのコーチたちが、他の選手は持っていない彼のちょっとした素晴らしさを見出して、思い切りそれを伸ばす事に成功したからではないかと私は思っている。

2)ジュニアの育成

自分自身の考え方を振り返って見ると、矢張り半世紀近く過ごしてきた企業でのモノの考え方が、自分の考え方全てに当てはめられている様に思うのである。大学を出て100人に満たない小さな会社に入り、定年で退社する時には15万人の世界企業になっていたので、あらゆるサイズの会社と言うものを経験して来たが、その間に常に変わらず企業の成長に一番に大事な事は新製品開発であると学んできた。

そして、最初に新しいモノを発想されてから、それが色々な苦しい段階を経て、その製品が本当に企業の主力製品になるには大体10年は掛かっていた。

だから、現在隆々としている会社は10年前の経営者がスタートした事が今実っているのであって、現在の経営者がやった事では無いのである。

最近は「ドッグイヤー」と言われて、何事も凄いスピードで進んでいると言われるが、それでも少なくとも5年は掛かると思っている。

話はテニスから離れてしまったが、私はテニスも企業と同様であると思っている。本当に素晴らしい選手を生み出すには10年近くの歳月と努力が必要であると思う。そして一番大事なのはジュニア育成の方法であると思っている。

幸いにテニス協会の会長として四大大会に行けるパスが頂けるので、出来るだけ行っているが、四大大会での各国の協会長への待遇はとても良くて、何時もメインスタジアムの良い席で見る事が出来るのだが、私は殆ど大部分の時間を大会会場の隅のほうのコートで行なわれているジュニアの試合を見る事に費やしている。特に日本のジュニア選手の試合は出来る限り観戦し応援して来た。ジュニアの試合を見るのはメインスタジアムの世界のトップ選手を見るのとは又違った感動が有り、そして新しい発見をする事が出来るのである。

ジュニア選手の中には、もうグランドスラムジュニアの本戦に来て試合していると言うだけで、雰囲気に押されて頭が真っ白になっているかの様に、普段と全く違った力しか出せない選手。闘争心むき出しは良いが力が入りすぎてしまっている選手。そして、試合が終わった時の表情も様々である。負けて悔しくて悔しくて泣きじゃくる選手、やれやれ終わった、後はお土産買って帰ろうとホットしている選手。同じ負けても様々である。

そう言うシーンを見ながら「此のジュニアは凄くなるぞ」とか「此の選手はちょっと」と勝手に想像しているが、やがて其の中から世界で活躍し始める選手が出て来ると「ああ、やっぱり」と思う事もあれば「ええっ、あの選手が?」と思う事もある。此れは総てが出来上がっているプロ選手の試合を見るのとは違った「先を読む」楽しみである。

3)ナショナルトレーニングセンターのやるべき事

伊達選手を始めとして当時の日本女子の黄金時代を築く一つのベースとなっていた久我山のナショナルトレーニングセンター(NTC)を、2001年に当時のJTAの経済状況から残念ながら閉じてしまって以来、いつかNTCを再開しなければと思っていた夢が終に昨年実現した。

此の新しいNTCと、全国の現場でジュニア育成に関わって居られるコーチの方達とを双方向で結ぶ全国一貫指導体制を構築しよう、その為の資金は全国のテニス愛好者の皆様の浄財で行ないたい、と言う小浦強化本部長(当時)の発案を採用し、橋本委員長と委員の方々が大変な努力をして下さったお陰で「ワンコイン制度」が全国に定着し始めてきた。本当に有り難い事である。若し企業の皆さんにその支援をお願いしていたら、今の様な不景気の状況でどうなっていたかを考えると本当に良かったと思っている。感謝である。

しかし、いよいよNTCが皆さんの浄財によって稼動し始めたら、後は如何にして世界で活躍でき、オリンピックでメダルを取れる選手を育成するか、と言う大きな課題を私達は背負う事になる。

この事が「ワンコイン制度」で浄財を出して下さっている方々への最大のリターンなのである。

今年から強化本部は福井本部長と植田、堀内、村上、右近の4人の副本部長にお願いし、そして小浦常務理事には全国プロジェクト担当として、全国の現場を廻って貰って一貫指導体制のもう一方の側を担って頂く事とした。目標は2012年のロンドンオリンピック、そして其の先の2016年の、望ましくは東京オリンピックである。

勿論、目指すは金メダルである。目標は高ければ高いほど良い。普通の努力では到底到達出来ない目標こそ人間をクリエイティブにすると私は信じている。

良く、創造性こそ大事だと言われるが、天才ならいざ知らず、我々普通の人間がそう簡単に創造的な発想が出来るものでは無い。だから常人がクリエイティブになろうとするには、思い切って、ちょっとやそっとでは出来そうに無い高い目標を掲げてチャレンジするしか無いと私は思っている。どうやっても出来なければ全く新しいやり方を考えざるを得ないからである。そこに創造性が生まれて来ると思っている。

そして、この様な新しい事にチャレンジすれば失敗は必ず起こると思った方が良い。恐らく失敗しない様なやり方では生ぬるいのだと思う。

だから失敗を恐れてはいけないし、他人の失敗を批判してもいけない。失敗したら皆で失敗の原因を突き止める事こそ大事であり、それで大きく成長すると思っている。何処かの世界のように、少しでも失敗したら直ぐ責任を取らされる社会では創造性など生まれる筈は無いと私は思っている。

我々の目標は明確である。2012年であり2016年である。其の日を目指してトップ・ジュニア達のちょっとした素晴らしい特性を見つけて、思い切りそこを伸ばして欲しいと思う。この事を繰り返し努力すれば、結果は必ずついて来ると信ずる事が大事である。

とても厳しい事だが、此れには周りの方々の暖かい応援が絶対に必要であると思う。

なんとしてでも日本人選手で金メダルを取りたい。

是非全国のテニス愛好家の皆様の暖かいご声援とご協力をお願いしたい。